進化という言葉を聞くと、どうしても遠い昔の話に感じます。

ダーウィンだったり、サバンナだったり、原始人だったり。

でも最近は、人間の身体や心の仕組みを見ていると、ときどき思います。

進化というのは、そんなに遠い話でもないのかもしれない。

むしろ、いまの自分の中にも、その続きを見ることができるのではないか。

そんなことです。

血糖値の仕組みと身近な生活|インスリンと「血糖を上げるホルモン」の不思議

自分は以前、消化器の大きな手術を経験しています。

それ以来、ここ数年は血糖値を意識しながら生活してきました。

薬も飲んでいますし、食事や体調との関係を気にすることもあります。

とはいえ、数年も付き合っていると、それはもう特別なことではありません。

生活の一部です。

だからでしょうか。

膵臓とインスリン、血糖値の仕組みについて知るとき、自分にとっては単なる医学知識というより、少し実感を伴った話になります。

そんな中で、以前から妙に面白いと思っていることがあります。

血糖値を下げる中心的なホルモンは、膵臓から分泌されるインスリンです。

一方で、血糖値を上げる方向には、グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンなど、いくつもの仕組みがあります。

食べていないとき。

運動しているとき。

強いストレスがかかったとき。

そういう場面では、こうしたホルモンが働き、肝臓に蓄えているグリコーゲンを分解したり、新たにブドウ糖をつくったりして、血糖値が下がりすぎないようにしています。

血糖が下がりすぎれば、脳をはじめ、ブドウ糖を必要とする組織にエネルギーを届けにくくなります。

だから身体は、血糖を一定の範囲に保とうとします。

こうして見ると、人間の身体は「血糖が足りなくなること」に対して、ずいぶん念入りに備えているようにも見えます。

もちろん、

「上げるホルモンが多い。だから人間は飢餓に備えて進化した」

と単純に言い切れるほど、身体は単純ではありません。

でも、人類がとてつもなく長いあいだ、食べ物が十分にあるとは限らない環境で生きてきたことを考えると、この仕組みが少し違って見えてきます。

人類の歴史と飢餓の備え|なぜ身体は「エネルギー不足」に念入りなのか

当然ですが、昔の人間にはコンビニがありません。

冷蔵庫もありません。

朝昼晩、決まった時間に食事が出てくるわけでもありません。

食べ物が余って困る時代より、

「次にいつ食べられるかわからない」

という時代のほうが、圧倒的に長かったはずです。

その中で、

歩く。

獲物を探す。

逃げる。

寒さに耐える。

生き延びる。

食べていないから今日は休もう、とはいきません。

そう考えると、血糖値を維持するための仕組みがいくつも用意されていることに、人間が生きてきた長い時間が少し透けて見えるような気がします。

そして、ここから急に話は身近になります。

甘いものがやめられない理由|昔の身体でコンビニのスイーツ売り場に立つギャップ

甘いものはおいしい。

脂っこいものもおいしい。

お腹が空くと、食べ物のことが気になります。

いまの世界では、食べ物はそこらじゅうにあります。

スーパーへ行けば山ほど並んでいる。

コンビニは24時間開いている。

スマホを触れば、家まで届けてくれる。

そんな環境の中に、昔から続いてきた身体を持った自分がいる。

そう考えると、少しおかしくなります。

高エネルギーの食べ物を見つけたとき、

「食べられるなら食べておこう」

と感じることには、昔の環境では意味があったのかもしれません。

でも、その仕組みのまま、今の自分はコンビニのスイーツ売り場に立っている。

しかも、そこには毎日ちゃんと新商品まで並んでいる。

そりゃあ、なかなか手強い。

他人の目や損失が気になる理由|心や感情に残る「生存のための仕組み」

身体だけではありません。

心の中にも、似たことを感じる瞬間があります。

人から嫌われると気になる。

仲間外れになるのは嫌だ。

損したことをいつまでも引きずる。

よくわからないものには少し身構える。

大きな音には、考える前に身体が反応する。

分かっているのに、欲求をうまく抑えられない。

こうした反応を、全部進化だけで説明するのは無理があります。

性格もある。

経験もある。

文化もある。

育った環境もある。

でも、

「この反応は、生き延びるうえで何か意味があったのかもしれない」

と考えてみると、少し腑に落ちるところがあります。

人間の感情や判断も、生存のためにつくられてきた仕組みの上で動いている。

そう考えると、ままならない自分が少し面白く見えてきます。

文明は新しい。でも、人間はそれほど新しくない|AI時代のスマホと昔の脳

いま自分は、スマートフォンを持っています。

AIと話しています。

食べ物はいつでも買える。

暑ければエアコンをつける。

知らないことがあれば、数秒で検索できます。

文明の変化はものすごく速い。

でも、その中で暮らしている人間の身体や心の基本的な仕組みは、数万年前の人間と比べても、それほど劇的には変わっていない。

そう考えると、なんだか少し笑えてきます。

最新のAIを使いながら、人から嫌われることを気にする。

キャッシュレスで買い物をしながら、損すると腹が立つ。

24時間食べ物を買えるのに、甘いものを見ると欲しくなる。

文明は新しい。

でも、人間はそれほど新しくない。

その組み合わせで、自分たちは毎日を生きています。

自分の中に「進化の流れ」を見る|ままならない自分を欠点ではなく歴史として眺める

進化という見方を知ったところで、何かが劇的に解決するわけではありません。

食欲がなくなるわけでもない。

人の目が気にならなくなるわけでもない。

欲求を自由自在にコントロールできるようになるわけでもありません。

でも、

「なぜ自分はこんなふうなんだろう」

と思ったときに、

「まあ、数万年前から続いてきた仕組みを積んでいるんだから、そう簡単にはいかないよな」

と思えることはあります。

それだけで、少し見え方が変わります。

自分の中にある、ままならない気持ち。

なかなかコントロールできない欲求。

人の目を気にしてしまう感情。

そういうものを、欠点としてだけ見るのではなく、

「ずいぶん長い時間をかけて、ここまで持ってきたものなのかもしれない」

と眺めてみる。

そうすると、少しおかしくなります。

進化は、博物館の中にだけある昔話ではありません。

血糖値を調整している身体の中にもある。

甘いものをおいしいと感じる感覚の中にもある。

人の目を気にする心の中にもある。

そう考えると、

自分もまた、ずっと続いてきた進化の流れの中にいる。

そんなことを、ふと実感します。

人間は、ずいぶん長い旅をしてきました。

そして今も、かなり昔からの身体と心を持ったまま、AIと話し、コンビニでスイーツを選びながら生きています。


さらに思考を深めたい方へ(おすすめの書籍)

今回書いた「現代社会と人間の古いOSのギャップ」や「進化の痕跡」について、もう少し面白がってみたい方には以下の本もおすすめです。



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