前回の記事では、
子供時代の記憶がなぜ残りやすいのか、
そして記憶とは本来どんな役割を持っているのか、
というところまでを見てきました。
今回は、その続きです。
人間は、記憶を頼りに生きてきたようでいて、
実はかなり早い段階から
記憶を信用しない生き方を選んできました。
その象徴が、「書く」という行為です。
脳の限界を認める:なぜ人間は「記憶力の低い生き物」として進化したのか
私たちはよく、
「覚えておく」「記憶しておく」という言葉を使います。
けれど実際には、
人間はそれほど記憶力の良い生き物ではありません。
時間が経てば忘れますし、
都合よく書き換えますし、
自信満々に間違えることもあります。
だからこそ、人は早くから
「覚えないで済む方法」を考え始めました。
「書く」の真実:記憶を強化するためではなく、記憶から「解放」されるために
壁画、石碑、結び目、粘土板、紙、本、ノート。
これらは一見すると、
記憶を残すための道具に見えます。
ですが、少し見方を変えると、
まったく違う役割が見えてきます。
書くとは、
記憶を鍛えるための行為ではありません。
記憶に頼らなくて済むようにするための行為です。
忘れてもいい。
覚えていなくてもいい。
必要なときに、戻れればいい。
書くという行為は、
その「戻る場所」を作ることでした。
記憶 vs 参照:脳の負荷を最小化する「思考のショートカット」の作り方
ここで、
「記憶」と「参照」の違いを整理してみます。
記憶は、
感情に引きずられ、
時間とともに歪み、
維持するだけでも脳に負荷がかかります。
一方、参照は違います。
忘れても問題ありません。
必要なときだけ取りに行けばよい。
状態が変わっていれば、確認し直せます。
人間が進化の過程で磨いてきたのは、
「覚える力」よりも
戻れる力だったのではないでしょうか。
怠け脳の勝利:外部化によって生まれた「判断」と「選択」のための余白
脳は、基本的に怠け者です。
できるだけ考えたくない。
できるだけ覚えたくない。
できるだけ同じことを繰り返したくない。
その要求に、
文化や道具が応えてきました。
書く。
残す。
並べる。
後で見る。
記憶を外に逃がすことで、
脳は本来の役割である
「判断」や「選択」に集中できるようになりました。
記憶の外部化は、怠け脳の敗北ではありません。
怠け脳の勝利だったのです。
AIは「究極の外部脳」:20万年前から続く、参照による思考の拡張
最近、AIによって
「覚える必要がなくなった」
「考えなくてもよくなった」
という言い方をよく耳にします。
けれど、これは急な変化ではありません。
人間はずっと前から、
「全部を覚えない」
「全部を考えない」
という方向へ進んできました。
AIは、その延長線上にあります。
人間が残した断片。
書き残した痕跡。
考えた途中のメモ。
それらをつなぎ直し、
広げ、整える。
AIは、人間の思考を奪う存在ではなく、
参照による思考を極端に拡張した存在だと言えそうです。
AI時代に一目置かれる人の条件:「知識の量」よりも「戻れる場所」の数
すべてを覚えている人でしょうか。
知識が多い人でしょうか。
もしかすると、
そうではないのかもしれません。
何を覚えなくていいかを知っている人。
どこに戻ればいいかを分かっている人。
一緒にいると、頭が疲れない人。
そういう人に、
私たちは自然と一目置いている気がします。
書くことの役割は、静かに変わっています
書くとは、
知識を誇示することではありません。
忘れても大丈夫なように、
戻れる場所を作ること。
思考を外に置き、
脳を少し楽にしてあげること。
人間は、
記憶する生き物ではありませんでした。
参照しながら、生き延びてきた生き物でした。
この2本を通して見えてくるのは、
「賢さ」の話ではありません。
省エネの話です。
そして、
怠け脳は、最初から
かなり合理的だったのかもしれません。
【結論】不完全な脳を愛する:限界を知るからこそ生まれた、人間の叡智
書くことも、
参照することも、
記憶を外に逃がすことも、
AIに助けられることも。
これらすべてを生み出したのは、
結局のところ、人間の脳です。
怠け者で、
忘れっぽくて、
都合よく歪む。
そんな脳が、
道具を作り、
文化を作り、
文明を積み上げてきました。
人間の叡智とは、完璧な記憶力のことではありません。
むしろ、不完全な脳を前提にして、
どうすれば楽に生きられるかを
延々と試してきた、その過程そのものです。
書くという行為も、
参照するという発想も、
AIという存在も。
すべては、
人間の脳が、自分の限界を知っていたからこそ生まれたもの
なのかもしれません。
だから最終的に、
どれだけ外に記憶を出しても、
どれだけ思考を委ねても。
すべては、
人間の脳に帰結します。
怠け者で、
でも、かなり賢い脳に。
【編集後記:自分の足で、確かめに行く】
脳の仕組みがどうあれ、自分の足で歩き、
肌で感じる体験だけは代わりが利きません。
理屈はさておき、お気に入りの一足で外へ。
自由な足元で楽しみませんか。
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書くということについて。noteにも記事を置いています。よろしければぜひお読みください。
記憶が「思考のショートカット」であるなら、睡眠は「生命のアップデート」かもしれません。
Re:Trader ─ トレードからはじまる行動と心理のノートをもっと見る
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