なぜ実物を見ずに買うのか?5万円の家電をネットでポチる現代人

最近、少し不思議に思ったことがあります。

私たちは、実物を見ないまま高額な買い物をするようになりました。

例えば5万円の家電です。

昔なら家電量販店へ行きました。

実物を見る。

触る。

大きさを確かめる。

店員の話を聞く。

そんな手順を踏んでいたと思います。

しかし今は違います。

Amazonを開く。

レビューを見る。

星の数を見る。

比較記事を読む。

そして、そのまま購入する。

冷静に考えると少し不思議です。

5万円という金額は決して小さくありません。

失敗したら嫌です。

本来なら慎重になるはずです。

それなのに私たちは、実物を見ることなく購入ボタンを押します。

なぜでしょう。

私たちがネット通販で本当に買っているのは、商品ではなく「納得」

考えてみると、私たちは商品を選んでいるようで、別のものを探しているのかもしれません。

納得です。

この買い物は正しい。

失敗しないはずだ。

自分の判断は間違っていない。

そんな納得です。

レビューを見る。

ランキングを見る。

比較記事を見る。

私たちは慎重に検討しているつもりになります。

しかし順番は逆なのかもしれません。

欲しい。

便利そう。

面白そう。

そんな感情が先にあり、その後で理由を探している。

レビューやランキングは、その理由を補強する材料として機能しているようにも見えます。

行動経済学(システム1・2)から見る、レビューを読んでしまう心理

行動経済学で有名な ダニエル・カーネマン は、人間の思考をシステム1とシステム2に分けて説明しました。

システム1は速い思考です。

直感です。

感覚です。

一方のシステム2は遅い思考です。

比較する。

検討する。

分析する。

そうした働きを担います。

もちろん、システム2は単なる言い訳装置ではありません。

ただ、この理論から見えてくることの一つは、人間が合理的に判断していると思っている場面でも、実際には直感的な選択の後から理由を組み立てている可能性があるということです。

欲しい。

レビューを見る。

納得する。

買う。

私たちは、

レビューを見て欲しくなったのではなく、

欲しいという気持ちを正当化するためにレビューを読んでいるのかもしれません。

ネットの口コミやレビューを頼る行動は、現代の「合理的な適応戦略」である

ただ、ここで一つ反論もあります。

レビューを頼りにするのは、本当に非合理的なのでしょうか。

私はそうとも思いません。

昔は近所の店に並んでいる商品しか買えませんでした。

見たことがあるもの。

触ったことがあるもの。

知っているメーカーのもの。

それが普通でした。

しかし今は違います。

世界中の商品が並んでいます。

名前も聞いたことがないメーカー。

近所には売っていない商品。

実物を見ることも難しい商品。

そうしたものが無数に並んでいます。

もし、

「実物を見たものしか買わない」

というルールを徹底したらどうなるでしょう。

おそらく昔とあまり変わりません。

身近にあるものしか買えなくなります。

そう考えると、レビューは単なる手抜きではありません。

現代社会の情報量に対応するための、人間なりの適応戦略なのかもしれません。

私たちはレビューを使わなければ、あまりにも多すぎる選択肢を処理できないのです。

なぜ「星4.5」を信用するのか?人間が求めるのは真実ではなく「本物らしさ」

ここまで書くと、こんな疑問も出てきます。

レビューは本当に信用できるのでしょうか。

サクラもあります。

ステマもあります。

競合による低評価もあります。

だからレビューは信用できない。

そう考えることもできます。

しかし話はそれほど単純ではありません。

悪意のあるレビューを徹底的に削除したらどうなるでしょう。

今度は良いレビューばかりが残ります。

すると私たちは逆に疑い始めます。

本当に良い商品なら、少しくらい不満もあるはずだからです。

実際、人は完璧な星5.0の世界をそれほど信用しません。

むしろ、

「性能は良いけれど少し重い」

「配送が遅かった」

「思ったより大きかった」

そんな小さな不満が混ざっている方が安心します。

少し凹凸がある方が本物らしく見えるのです。

人間は真実を求めているようで、実は「本物らしさ」を求めているのかもしれません。

【社会学】私たちが本当に信頼しているのは、商品ではなく「Amazonというシステム」

さらに考えてみると、私たちはレビューを信じているのでしょうか。

あるいは別のものを信じているのでしょうか。

社会学者の アンソニー・ギデンズ は、現代社会は「抽象的システムへの信頼」によって成り立っていると説明しました。

例えば私たちは、電車の運転士がどんな人なのか知りません。

その日の体調も知りません。

それでも平気で乗ります。

信じているのは運転士個人ではなく、鉄道というシステムだからです。

ネット通販も少し似ています。

私たちは画面の向こうの売り手を知りません。

会ったこともありません。

それでも5万円を支払います。

Amazonの決済システム。

購入者認証。

評価アルゴリズム。

返品制度。

そうした仕組み全体を信頼しているからです。

考えてみると、私たちはレビューを信じているようで、実はレビューを支える社会システムを信じているのかもしれません。

おわりに:情報の「信じやすさ・疑いやすさ」を決める、あなたの認知の閾値

なぜ人は同じ情報を見ても、

「効きそう」

と思う人と、

「怪しい」

と思う人に分かれるのでしょう。

それは単純に、信じやすい人と疑いやすい人がいるからではないのかもしれません。

人それぞれ、

納得するために必要な証拠の量が違う。

そう考えることもできます。

星4.5で十分な人もいる。

レビューを100件読む人もいる。

実物を見ないと決められない人もいる。

違うのは商品の評価ではありません。

納得の閾値です。

私たちは商品を選んでいるようで、実は自分自身の認知スタイルを映している。

買い物という日常の行動を少し観察してみると、そんな人間の面白い癖が見えてくるのかもしれません。


本文でご紹介した「抽象的システムへの信頼」という概念の生みの親であり、現代社会学の巨頭ギデンズの代表作です。

私たちがなぜ、顔も知らない他人が動かす電車に乗り、実物も見ないままネットで5万円の家電を買えるのか。それは、私たちが高度に発達した「社会の仕組み(システム)」そのものを盲信しているからである――。

ネット通販やSNSの普及によって、むしろ今まさにリアリティを増している「現代社会の不気味さと、その中での生き方」を鋭く解剖した一冊です。

日常の当たり前を「一歩引いた視点」から眺め直してみたい方は、ぜひ手に取ってみてください。



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