サンクコスト──なぜ“もう少しだけ”が止まらなくなるのか

何かを始めたとき、人は途中で引き返すのが苦手だ。

映画がつまらなくても席を立てないし、予約したご飯がイマイチでも食べ続けてしまう。

理由は、たいてい同じだ。

「ここまでのお金や時間がもったいない」

この感覚こそがサンクコスト。

すでに支払われてしまい、もう回収できないコストのことだ。

本来、失われたものは意思決定の材料に入れる必要はない。

けれども人間の脳は、そう割り切れるようにはできていない。

たとえば、

・半分まで読んだ本は、最後まで読まないと落ち着かない

・途中でやめたら“損した気分”になる

・引き返すことが「自分の判断の失敗」みたいに感じてしまう

こうした心の動きが重なると、「続ける」「もう少しだけやる」という方向に、どうしても傾いてしまう。

この「もったいない」は決して悪い感情ではない。

丁寧に物事を扱う心から生まれる、健全な価値観でもある。

ただし、文脈が変わると、この価値観が裏目に出てしまう。

たとえばトレードでは、ポジションが逆行しているのに

「ここまで耐えたんだから」

という気持ちが生まれる瞬間がある。

損切りの判断が鈍るのは、未来の利益ではなく、

“過去の自分の選択を守りたい”

という気持ちが強くなるからだ。

「間違っていなかった」と思いたい。

「戻ってきたら報われる」と感じたい。

この気持ちが、判断を未来から切り離し、

“いままでの投資”に引きずられていく。

サンクコストとは、未来ではなく過去が行動を支配する現象だ。

そしてこれは、誰もが経験する自然な心理。

弱さではなく、人が「自分の物語を守りたい」と願う気持ちの表れでもある。

もしあなたが何かを続けるべきか迷っているなら、

問いをひとつだけ変えるといい。

「これまで何を使ったか?」ではなく

「これから何が得られるか?」

未来から見て合理的かどうか。

それだけでいいはずなのに、人はどうしても“過去”の自分を背負ってしまう。

その重さに気づけるだけで、

一度立ち止まる余白が生まれる。

そしてその一歩が、

あなたの選択を、過去ではなく未来に向けて開いてくれる。

077 確率と希望の実験場 — SNS詐欺を行動経済学で読む 第4章|【FX】Re: Trader