前編では、なぜ今アナログレコードが「効いてしまう」のかを、
不便さや身体性、集中という観点から見てきました。
では、その対極にある存在、
サブスクリプション型の音楽配信はどうでしょうか。
結論から言えば、
サブスクは間違っていません。
むしろ、あまりにも正しかった。
☝️この記事の前編です。お読みになっていないようでしたら是非こちらもお読みください。
夢のようなシステムだったサブスク
どんな曲でも、すぐに検索できる。
聴いてみて違ったら、すぐにスキップできる。
月額定額で、何千万曲にもアクセスできる。
これは、レコードやCDの時代を知る世代からすれば、
まさに夢のような仕組みでした。
一枚のアルバムを買うために、
財布と相談し、
失敗を覚悟し、
店頭で長く悩んでいた時代。
その制約が、すべて消えた。
しかもサブスクのおかげで、
若い世代が親世代の音楽に自然に触れられるようになった。
ジャンルも時代も飛び越えて、
「好き」が受け継がれていく。
これは間違いなく、
音楽体験を民主化した、素晴らしい進歩です。
効率化が変えた「聴き方」と、タイパの罠
ただ、その便利さは、
音楽との距離感を、静かに変えていきました。
すぐにスキップできる。
検索すれば、すぐに答えが出る。
この環境では、脳は
瞬時に快・不快を判断する
「システム1(直感)」を、ほぼ使い続けることになります。
少しでも「違うな」と感じた瞬間に次へ進む。
イントロで判断する。
サビまで行かない。
近年の音楽制作が
「いかに冒頭数秒でスキップされないか」
という課題に直面しているのは、
私たちの聴き方そのものが
極端に「タイパ(タイムパフォーマンス)」へ
最適化された結果でもあります。
その結果、音楽は
向き合う対象というより、
流れている背景になりやすくなる。
これは悪いことではありません。
生活に音楽が溶け込むのは、とても自然な姿です。
ただし、
時間をかけて分かる音楽に出会う確率は、
構造的に下がっていく。
レコードが強制する「熟議」の時間
アナログ盤には、よくある体験があります。
買ってみたら、
想像していたのと全然違った。
正直、最初はピンとこない。
それでも、買ってしまったから、
とりあえず最後まで聴く。
何度か針を落とす。
しばらく寝かせて、また聴く。
これは脳にとって、
直感で判断するシステム1を一度保留にし、
時間をかけて理解を深める
「システム2(熟議)」を動かすプロセスにほかなりません。
そうしているうちに、
ある瞬間、ふと腑に落ちる。
「ああ、そういうことか」
「これは、こういう音楽だったのか」
最初は受け付けなかったものが、
いつの間にか、
自分をまったく違う世界へ連れていってくれる。
リコメンドでは出会いにくい「未知の自分」
一方で、サブスクのリコメンドはとても優秀です。
好みに近いものを、効率よく届けてくれる。
ただ、その精度が高まるほど、
私たちは知らず知らずのうちに、
自分の好みの殻に閉じ込められていきます。
いわゆる
フィルターバブル(エコーチェンバー)の状態です。
「今の自分がすでに理解できる範囲」から、
外に出にくくなる。
新しいけれど、分かりやすいもの。
心地よいけれど、想定内のもの。
それが悪いわけではありません。
それで十分な人も、たくさんいる。
ただ、
自分がまだ知らない自分に出会う確率は、
少しずつ下がっていく。
■ 参考:音楽サブスクにみる「エコーチェンバー」と心地よい停滞
音楽サブスクリプションサービスの「あなたへのおすすめ」機能は、非常に優秀です。
自分の好みを学習し、聴きたい曲だけを次々に流してくれます。
しかし、これが過剰になると「エコーチェンバー(共鳴室)」現象が起きます。
- アルゴリズムによる「好み」の固定: 一度「不安な曲」や「特定のジャンル」を聴き続けると、AIはそれをあなたの望みだと判断し、似たような曲ばかりを提案するようになります。新しい音楽(視点)に出会う機会が失われ、自分の好みの世界に閉じ込められてしまう状態です。
- 思考の「おすすめ機能」を疑う: 健康診断の結果待ちの際、私たちの脳内でもこれと同じことが起きています。「不安」という検索ワードに対して、脳内のアルゴリズム(システム2)が過去の失敗談やリスク情報を「おすすめ」として次々に表示し、不安を増幅させていくのです。
サブスクにおいて、あえて「普段聴かないプレイリスト」を選んだり、アナログレコードを裏返すように意識を切り替えたりすることは、脳内のアルゴリズムによる支配(思考の空回り)から抜け出すための有効なメタファー(比喩)となります。
良い・悪いではなく、構造の違い
ここまで来ると、
この話は「善い」「悪い」ではないことが見えてきます。
サブスクも、レコードも、
どちらも人間の構造に寄り添っている。
サブスクは、
脳が「選ぶのは面倒だ」と感じる性質に、
極めて正直な仕組み。
レコードは、
時間と反復によってしか見えない世界がある、
という前提に立った仕組み。
どちらが正しいかではなく、
どちらの体験を、
いまの自分が求めているか。
ゆっくり回る針の意味
夕方の光の中で、
レコードに針を落とす。
それは、
効率を否定する行為ではありません。
「今は、すぐに分からなくてもいい」
「今は、時間を使ってみよう」
そう、自分に許可を出す行為です。
アナログへの揺り戻しは、
過去への逃避ではない。
便利さの中で、
置き去りにしてきた体験を、
もう一度引き受けようとする動き。
それだけの話なのかもしれません。
お読みいただきありがとうございます。このブログの中には他にもたくさんの言葉が置いてあります。
ぜひ読んでみてください。きっと何かちょっとした発見、ヒントが見つかると思います。
この記事の前編です。
👉アナログへの揺り戻し。なぜレコードが脳を整えるのか?——不便さがもたらす「選択のパラドックス」からの解放
このブログでは、日常のふとした瞬間に感じる「生きづらさ」や、
心身の健康、そして人生を少し面白くする視点について綴っています。
読んでくださった今のあなたにとって、
次に必要な一編がここにあるかもしれません。
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