バス停の広告に、彼女の姿がありました。

小柄なクライマー。

世界の舞台で戦う選手です。

その顔を見た瞬間、
ふと、あの場面を思い出しました。

オリンピックの壁の前に立ち、

最初のホールドに手を伸ばし、

そして競技が始まる前に終わってしまった、あの出来事です。

勝てなかった、という記憶ではありません。

難しかった、という印象でもありません。

ただ、始められなかった、という感覚だけが残っています。

テレビで見ていたとき、
自分でも少し意外なほど、強い違和感がありました。

怒りや批判の気持ちはありません。

ただ、どこか落ち着かない、言葉にしづらい感覚です。

スポーツというものは、

だいたい同じ場所から始まるものだと思っていました。

スタートラインに立ち、

そこから差が出ていく。

体格差や才能の差も、

競技の中で表れていくものとして受け止めてきました。

けれどあの場面は、

差が出る前に終わってしまったように見えました。

自然の岩場なら、

届かない場所があっても不思議はありません。

世界がそういう形をしているだけです。

ですがあれは、

人が設計した壁でした。

もちろん、競技がおかしいと言いたいわけではありません。

誰かを責めたい気持ちもありません。

ただほんの一瞬、

スポーツがスポーツではない何かに見えたような、

そんな感覚が残りました。

バス停の広告の中で、

彼女はまっすぐ上を見ています。

世界的な選手として、

何も変わらずそこに立っています。

それでも、あのときの映像だけが、

なぜか心のどこかに引っかかっています。

日々の出来事の中に、

説明しきれない小さな違和感が混じることがありますが、

たぶんこれは、その類のものなのだと思います。

お読みいただきありがとうございます。


サンデーマウンテン

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