最近、アナログレコードを回す人が増えているらしい。

中古屋が賑わっている、若い世代がプレーヤーを買っている。

そんな話を、あちこちで聞くようになりました。

実際、2020年代に入り、

米国ではアナログレコードの売上枚数がCDを上回ったという統計(RIAA調査)もあります。

この「逆転現象」は、一時的な流行というより、はっきりとした潮目の変化に見えます。

ただ、これは音質の話ではなさそうです。

「デジタルより音がいい」という議論は昔からありますし、

正直、いまの配信音源で困っている人はほとんどいません。

それでも、なぜレコードなのか。

この動きには、懐古趣味やレトロブームという言葉では説明しきれない、

妙な必然性が感じられます。


不便すぎる道具が生む「ナッジ」

アナログレコードは、とにかく不便です。

重い。

場所を取る。

片面が終われば、裏返さなければならない。

曲を飛ばすこともできません。

合理性だけを見れば、勝ち目はありません。

スマホ一つで何千万曲も聴ける時代に、

わざわざ選ぶ理由はないように思えます。

それでも人は、あえてその不便さを受け入れている。

ここに、この話の核心があります。

この不自由な設計は、

迷いやすい現代人の背中を「聴く」という行為へ、そっと押し止める。

レコードは、心地よいナッジ(後押し)として機能しているのではないでしょうか。


「選択を終わらせる」という合理性

レコードを聴く前に、人は必ず一つの行動を取ります。

棚の前に立ち、数枚の中から

「今日はこれだな」と、一枚を選ぶ。

その瞬間、実はとても重要なことが起きています。

選択が、終わるのです。

行動経済学には「選択のパラドックス」という言葉があります。

選択肢が増えすぎると、人は選ぶことに疲れ、

結果的に満足度が下がってしまう現象です。

配信サービスでは、音楽が流れている間も選択は続きます。

次は何にしようか。

この曲は飛ばそうか。

迷い続ける状態は、想像以上に脳を疲弊させ、

「決定疲れ」を引き起こします。

レコードは違う。

一度針を落としたら、もう選ばなくていい。

その不自由さが、結果的に脳を楽にする。

不便さは欠点ではなく、

判断を終わらせるための仕組みとして機能しているのです。


神経を使う不便さが、集中を生む

レコードの不便さは、まだあります。

少しの不注意で傷がつく。

雑に扱えない。

保管にはそれなりのスペースが必要です。

つまり、レコードは

「気を遣わずに扱える道具」ではありません。

けれど、この神経を使う感じこそが重要です。

丁寧に扱うことを強制される道具は、

自然と人の注意を一点に集めます。

無意識に触って、無意識に消費する。

そうした振る舞いを、レコードは許してくれない。

この扱いづらさが、

結果として「ちゃんと聴く」状態を生み出しているのです。


身体性と「接地感」が現実を呼び戻す

レコードを聴く体験には、必ず「触る」という工程があります。

ジャケットを手に取る。

盤を慎重に取り出す。

針を落とす。

この一連の所作は、意味のない儀式ではありません。

認知科学の視点で見れば、人間の脳は

視覚や聴覚だけで世界を理解するようにはできていません。

重さ、抵抗、質感。

そうした物理的な情報があって、初めて

「これは現実だ」と認識します。

デジタル体験が続くと、

どこか世界が浮いた感じになるのは、

この接地感(グラウンディング)が不足するからかもしれません。

レコードは、音楽を聴く前に、

「今、ここで何かが始まる」という合図を、

身体ごと脳に送ってくるのです。


集中を構造化する「外部装置」

レコードは途中で止めにくい。

曲を飛ばしにくい。

これは不親切な設計に見えますが、

見方を変えると、まったく違って見えます。

レコードは、

「ながら聴き」を前提としていません。

通知も来ない。

次の曲への誘惑も少ない。

一定時間、注意が一つの対象に向かい続ける。

現代人が失いがちな、

中断されない時間を、

レコードは静かに守ってくれます。


レコードは「脳の調律装置」なのかもしれない

ここまで見てくると、

レコードは単なる音楽再生機器ではなく、

脳の状態を整える装置のようにも見えてきます。

選ばなくていい。

触れて、現実を感じられる。

集中が途切れにくい。

これらはすべて、

デジタルに最適化されすぎた環境で、

脳が無意識に欲しがっているものです。

だからこそ、今さらレコードが「効いてしまう」。

この揺り戻しは、レトロ趣味ではありません。

脳が、少し楽をしたがっているだけなのかもしれない。

——そして、この話は、音楽の世界だけでは終わりません。

(後編につづく)

お読みいただきありがとうございます。

このブログの中には他にもたくさんの言葉が置いてあります。

ぜひ読んでみてください。きっと何かちょっとした発見、ヒントが見つかると思います。

👉子供時代の記憶が妙に残る理由

このブログでは、日常のふとした瞬間に感じる「生きづらさ」や、

心身の健康、そして人生を少し面白くする視点について綴っています。

読んでくださった今のあなたにとって、

次に必要な一編がここにあるかもしれません。

もしよろしければ、本棚を少しのぞいてみませんか?

👇 Re: Traderを深く味わうための「最初の一歩」をまとめました 👇

Bluetoothでも使用できるレコードプレーヤーです。
手軽にBluetoothスピーカーと組み合わせて、ヘッドホン・イヤホンと組み合わせても使えます。
このプレーヤーがあればデジタルとは異なる、アナログ盤の世界をすぐに楽しめます。
私も使用していますが、部屋に置いたときの質感も満足いくものだと思います。

Bluetoothヘッドホンです。
バランスの良い音質、長時間使用していても快適です。
プレーヤーとセットですぐにアナログ盤の世界を堪能できます。これも私は使用しています。