考えすぎる脳と、すぐ決める脳──私たちの判断はなぜ揺れるのか
「考えすぎて動けなかった」
「直感で決めたら後悔した」
こんな経験、きっと誰にでもありますよね。
行動経済学では、こうした“判断の揺れ”を
ヒューリスティック(直感的判断)と
アルゴリズム(手順的判断)
という二つの思考のモードで説明します。
1. 考えすぎる脳──アルゴリズム的思考の限界
何かを決めるとき、私たちは「正しく判断したい」と思います。
だから情報を集め、比較し、シミュレーションし、
できるだけ“間違わない道”を選ぼうとします。
でも、その「正しさを求めすぎる」ことが、
かえって行動を遅らせてしまうことがあります。
頭の中で条件を並べ立て、リスクを想像し、
気づけば何も動けなくなっている。
それが、考えすぎる脳=アルゴリズム的思考の落とし穴です。
2. すぐ決める脳──ヒューリスティックの進化的合理性
一方で、人間の脳はもともと「素早く判断する」ように進化しています。
太古の時代、森の中で音がしたとき、
「よく考えてから逃げる」よりも「とりあえず逃げる」ほうが生存率が高かった。
つまり、“すぐ決める脳”は私たちのDNAに刻まれた、
生き残るための合理性だったのです。
現代でもその仕組みは残っていて、
脳は複雑な問題を前にすると、
過去の経験や印象に頼って素早く答えを出そうとします。
それがヒューリスティック。
つまり、私たちが「直感」と呼ぶものの正体です。
3. 行動経済学が教えてくれること
行動経済学のカーネマンとトヴェルスキーは、
この二つの脳の働きを体系的に研究しました。
人間は常に合理的ではない。
でも、不合理には理由がある。
たとえば、
- 直感で判断する「すぐ決める脳」は、スピード重視。
- 慎重に考える「考えすぎる脳」は、正確さ重視。
どちらかが正しいわけではありません。
大切なのは、状況によってモードを切り替えられるかどうかです。
4. 日常に潜む“判断のバランス”
朝、コンビニで「どのコーヒーにしよう」と迷う。
仕事で「この提案を出すか、もう少し練るか」と悩む。
家族に「言うべきか、黙っておくか」と考える。
日常のあらゆる場面で、私たちは
「考えすぎる脳」と「すぐ決める脳」のあいだで揺れています。
どちらも必要で、どちらにもリスクがある。
考えすぎればチャンスを逃し、
すぐ決めれば失敗を招く。
でも、その揺れを否定する必要はありません。
むしろ、人間らしさはそこにあります。

5. 「合理的であること」は目的ではない
AIのように冷静に、アルゴリズムのように間違えずに、
そんな風に動けたら理想かもしれません。
でも、私たちはAIではありません。
「失敗した」「後悔した」と感じるからこそ、
次の判断をより良くしようと学び続けることができる。
つまり、合理性の外側にこそ、人間の成長があるのです。
6. おわりに──考えすぎても、すぐ決めてもいい
トレードの世界では「ルールを守る冷静さ」が大切ですが、
日常生活では「感じる力」も同じくらい大事です。
考えすぎて動けない日も、
勢いで決めて失敗する日も、
どちらも人間らしい。
AIには真似できない、不器用な合理性です。
だから、焦らずいきましょう。
考えすぎてもいい。
すぐ決めてもいい。
大切なのは、「どちらの脳がいま働いているか」に気づくこと。
その気づきだけで、人生の判断は少しだけ静かになります。
