「物語を閉じたい脳」──トレード心理の奥にある“自己物語”の罠
人は、なぜルールを破ってしまうのか。
そして、なぜそのたびに「今度こそ正しい選択だった」と言い訳をしてしまうのか。
この問いを、行動経済学や心理学の観点から掘り下げたのが
最新のRe: Trader 記事「物語を閉じたい脳──トレードと自己ナラティブ・バイアス」です。
■ トレードは、“自己物語”の舞台
トレードという行為は、
利益と損失を扱う冷たい数字の世界に見えて、
実はとても人間的な「物語」の世界です。
最初に決めた利食いを少し動かしたくなる瞬間。
いったん逃げたあと、ドテンで取り返そうとする衝動。
その行動の裏には、「自分の物語をつなげたい」という深層心理が働いています。
記事の中では、これを自己ナラティブ・バイアス(Self-Narrative Bias)と呼び、
「人は常に、自分の行動に“意味”を与えようとする生き物だ」という視点から解き明かしています。
■ 一貫していたい欲求が、矛盾を生む
ルールを破るたびに感じる「なんとなく嫌な感じ」。
それは認知的不協和(Cognitive Dissonance)と呼ばれるもので、
自分の考えと行動が食い違っているときに生じる心のズレです。
私たちはそのズレを放っておけず、
「今回は状況が違った」「相場が変わったから」など、
“あとづけの理由”で自分を納得させようとします。
それは決して弱さではなく、
自己整合性の原理(Self-Consistency Principle)という、
人間が安定して生きるための自然な心理反応なのです。
■ ドテンは「物語を閉じたい」心の表れ
記事の中で印象的なのは、
「人は負けそのものより、“意味のない負け”に耐えられない」という指摘です。
だからこそ、ドテンという行動は、
“損を取り返すため”ではなく、
「負けに意味を与えるため」に行われることが多いのです。
「このドテンで勝つ自分がいるから、あの負けにも意味がある」
──人は、そんなストーリーを自分の中で作り上げます。
それは、人間が「事実」ではなく「物語」で世界を理解する存在だからです。
■ 物語を観察するということ
この記事が伝えたいのは、
「ルールを破る自分を責めないでほしい」というメッセージでもあります。
私たちは皆、完璧な一貫性を持てるわけではありません。
でも、その“ズレ”や“揺らぎ”の中にこそ、
自分の心理を理解するヒントがあります。
「いま、自分は物語を閉じようとしている」
そう気づくだけで、判断は少し静かになります。
