おひとり様は“孤立”ではなく、協力システムの成果
「ひとりで生きている」という感覚は、
思っている以上に、現代では自然なものになりました。
ひとり暮らし。
自分の収入で生活を回し、
誰にも大きく頼らず、
迷惑もかけずに日々を過ごす。
特にシニア世代に向けては、
「おひとり様でも大丈夫」
「ひとりでこそ自由」
といった言葉も多く見かけます。
そこには安心感があります。
同時に、どこか言葉にしづらい不安が混じることもあります。
本当に、私はひとりで生きているのだろうか。
誰にも依存していないと言えるのだろうか。
この問いは、
性格や生き方の問題というより、
社会の構造の問題に近いように思えます。
「誰にも依存していない」という感覚
おひとり様という言葉が持つ魅力の一つは、
「自立している感じ」にあります。
自分で稼ぎ、
自分で選び、
自分で暮らす。
この感覚自体は、決して間違っていません。
ただ、少し視点を引いてみると、
別の景色が見えてきます。
今日食べた食事は、
誰がつくり、誰が運び、誰が売っていたのでしょうか。
電気や水道は、
誰が管理し、誰が保守し、誰が復旧しているのでしょうか。
医療や交通、通信や安全は、
どれほど多くの人の仕事の上に成り立っているでしょうか。
こうして見ると、
「誰にも依存していない」という状態は、
実際には存在していないことがわかります。
おひとり様は、
誰にも依存していない存在ではありません。
無数の他者への依存が、見えなくなっただけ
重要なのは、
依存がなくなったのではなく、
依存が見えなくなったという点です。
現代社会では、
- 経済
- 信用
- 制度
- 専門分化
が高度に発達しています。
その結果、
私たちは他者の顔や名前を意識せずに、
生活を回せるようになりました。
パンを買うとき、
農家や物流や小売の人の顔は見えません。
病院に行くとき、
医療制度の全体像を考えることはありません。
それでも生活は、
静かに、滞りなく続いていきます。
おひとり様とは、
他者への依存が消えた人ではなく、
他者への依存を意識せずに済む環境に立つ人なのです。
それを可能にしたのが、経済・信用・協力の進化
この状態は、偶然生まれたものではありません。
人類は長い時間をかけて、
- 未来を信じる能力
- 見返りの遅れを受け入れる能力
- 協力を継続する能力
を進化させてきました。
これらが積み重なり、
- 貨幣
- 契約
- 保険
- 社会制度
といった仕組みが生まれました。
経済とは、
他者がその場にいなくても、
他者の協力を前提に生きられるようにする装置です。
信用とは、
相手を直接知らなくても、
行動を委ねられるようにする仕組みです。
協力とは、
顔の見えない関係を成立させるための、
人類の得意技です。
これらがあったからこそ、
「ひとりで暮らす」という選択が、
現実的なものになりました。
孤立と自立は、似ているがまったく違う
ここで、多くの誤解が生まれます。
ひとりでいることは、
すぐに「孤立」と結びつけられがちです。
しかし、
孤立と自立は、まったく別の状態です。
孤立とは、
支えとなる関係や仕組みが壊れた状態です。
一方、自立とは、
支えが分散され、
一つひとつが見えにくくなった状態です。
おひとり様が感じる不安や孤独は、
個人の弱さから生まれているのではありません。
依存が不可視化された構造の中で生きていることによる、
自然な摩擦です。
だからこそ、
完全に不安が消えることも、
孤独がゼロになることもありません。
それは欠陥ではなく、
人間として自然な反応です。
おひとり様は、協力の上に立つ存在である
ここまで見てくると、
おひとり様という存在は、
決して社会から切り離されたものではありません。
むしろ、
おひとり様は、
人類が築いてきた協力システムの
もっとも洗練された成果の一つ
だと言えるかもしれません。
家族や村や会社といった
特定の共同体に強く縛られなくても、
生活を成り立たせられる。
それは、
経済・信用・協力が成熟した社会だからこそ可能になった生き方です。
誇る必要もありません。
卑下する必要もありません。
ただ、
「ひとりで生きている」という感覚の背後に、
どれほど多くの他者の行為と信頼が積み重なっているのか。
それを静かに理解しておくことは、
これからの不安や孤独と向き合ううえで、
大きな支えになるはずです。
経済を、市井に生きる人の側から
経済は、
市場や制度だけで動いているのではありません。
市井に生きる人々が、
日々、信じ、待ち、選び、協力している。
その積み重ねが、
「ひとりで生きられる社会」を支えています。
おひとり様は、
孤立した存在ではありません。
協力の上に、静かに立っている存在です。
この視点から経済を見直すことは、
生き方を問い直すことでもあるのだと思います。
noteにも記事を書いています。ぜひのぞいてみてください。ちょっとした気づきやヒントが見つかると思います。ここまで読んでいただきありがとうございます。
