行動経済学で読む、SNS詐欺
詐欺について一言で言うならば——それは“人間の設計”が現実の場で試される場所です。
可変報酬、参照点、サンクコスト、社会的証明、フレーミング、羞恥と孤立。
行動経済学が長年にわたって示してきた理論は、ここでは教科書の図表を超えて、生々しい人間の決断として再現される。
率直に言う。僕はこれを「分析対象」としてだけ見ているわけではない。
同時に「責任」を持って向き合いたいと考えています。
本シリーズで僕がやることは二つです。
ひとつは、構造を暴くこと。
詐欺は偶発的な悪戯ではない。確率で計算され、心理の“分布”を利用して設計される現代的な営みです。
それを理論的に読み解くことで、なぜ人は巻き込まれ、どの段階で抜けられなくなるのかを明らかにします。
ここで扱うのは理論と観察の照合であり、手法の伝授ではありません。
もうひとつは、人を責めないこと。
被害は“愚かさ”の証明ではなく、「信じる」ことの副作用です。
誰もが脆い瞬間を持っている——それを認めることこそ、出発点だと僕は信じます。
だからこそ、被害者を断罪する物語にはしません。理解と共感を基盤に、読者と一緒に構造を見つめます。
ここで重要なのは視点の二面性です。加害者側も被害者側も、同じ理論(確率・期待値・報酬設計)に基づいて動いている。
違うのは倫理です。同じ道具が「人を守るため」に使われるか「人を搾取するため」に使われるか。
その差を明確に示すことが、本シリーズのもう一つの使命です。
最後に約束します。
この連載は「学術の引用ショー」でも「センセーショナリズム」でもありません。
静かに、しかし厳密に、行動経済学の洞察を現実に当てはめながら、人間の余白(希望・恥・孤独)を丁寧に描きます。
そして読み手のあなたが、「なるほど」と腑に落ちるだけでなく、周囲の誰かに静かに手を差し伸べられるようになることを目指します。
ここから始めます。題して——
『確率と希望の実験場──SNS詐欺を行動経済学で読む』。
読み進めるほどに、あなたの「見る目」と「受け止め方」が少しだけ変わるはずです。
興味があれば、ぜひ一緒に読み進めてください。僕はこのテーマを、長く、大切に扱います。
