いじめ(ハラスメント)はなぜなくならないのか──“古い群れの脳”が起こす誤作動の構造
いじめ(ハラスメント)がなぜ消えないのか。
制度も教育も整えられ、社会的な議論も増えているのに、
現実世界からはなかなか消えない。
この問いは、
善悪や道徳だけでは決して答えにたどり着けません。
いじめは「悪意」を原因とした現象ではなく、
群れが不安定になったときに起きる“誤作動”だからです。
この第3回では、その誤作動そのもの──
つまり、いじめを生み出す“群れの構造の力”に焦点を当てていきます。
そこには、均質性圧力、スケープゴート、責任分散といった、
人間が長い進化の歴史の中で獲得してしまった“古い脳のクセ”が眠っています。
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■ ① 群れの「均質性圧力」──違いへの敏感すぎる反応
人間は20万年以上、
“ほぼ同じ価値観・同じ行動様式を共有する小さな群れ”で暮らしてきました。
そのため、
群れの中の“違い”を脳が自動的にリスクとして反応する癖が、今も残っています。
たとえば:
・会議で“空気の違う人”だけが妙に浮く
・集団の中で、話すスピードが違う人が疎まれる
・校内や職場で、服装・雰囲気・話し方が少し違うだけで距離を置かれる
こうした現象は、
その人に“原因”があるわけではありません。
群れのほうが不安定になっているときに、「同質性を守りたい」という古い脳が誤作動しているだけです。
これが、いじめ(ハラスメント)の“入口”になります。
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■ ② スケープゴート構造──群れの不安が一人に集中する
群れが不安定になると、
集団心理は“責任の出口”を探し始めます。
これを心理学では
スケープゴート(生贄)
と呼びます。
・職場で大きなトラブルが起きたとき
・チームが成果を出せていないとき
・クラスの空気がぎくしゃくしているとき
こういう場面では、
群れは 「最も反撃しなさそうな個」 に負荷を押しつけて
集団の均衡を回復しようとします。
これは残酷な構造ですが、
個人の性格や善悪とは無関係です。
いじめのターゲットが“弱い誰か”に集中するのは
群れの圧力が「安全に押しつけられる場所」を探すから。
その結果、一人に過剰な負荷が集中し、
排除や嫌がらせが生まれてしまう。
いじめとは、
“弱い個が悪い”のではなく、
群れの不安を一箇所に押し出すための機能の暴走なんです。
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■ ③ 責任分散──「自分は加害者ではない」という錯覚
もう一つの強力な誤作動が、
責任分散 です。
複数の人が関わる場面では、
「自分1人の責任ではない」という心理が働き、
群れは簡単に無責任化します。
やがて、
・見て見ぬふり
・沈黙
・軽い同調
・曖昧な距離の取り方
こういった“誰もが少し関わっている状態”が生まれ、
これがいじめを長期化させます。
本人たちは「自分は大したことはしていない」と思いがちですが、
構造は確実に加害として働いてしまう。
責任分散は、
善人でも容易に誤作動に巻き込まれてしまう構造です。
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■ ④ いじめは「悪人がいるから起きる」のではない
ここまで見えるように、
いじめ(ハラスメント)は
悪意を持った個人がつくる現象ではありません。
・均質性圧力
・スケープゴート
・責任分散
これらの“群れの誤作動”が起きたときに、
たまたまそこにいた誰かが標的になるだけです。
だからこそ、
いじめはどれだけ教育しても完全にはなくならない。
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■ ⑤ では、誤作動をどう止めるのか?
誤作動は構造である以上、
善意や努力だけでは止まりません。
必要なのは、
環境の修正と、境界線(バウンダリー)と、対話による空気の整備です。
ただし、これらの具体的な方法論は、
次回以降の回でじっくり扱います。
誤作動を止めるには、
まず誤作動そのものの“構造”を言語化する必要がある。
その第一歩が今日の内容です。
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■ 次回:いじめが“全く発生しない環境”はなぜ存在するのか
誤作動の構造が見えたところで、
次に気になるのはこの疑問です。
なぜ、どれだけ探してもいじめが起きない環境が存在するのか?
そこには何があるのか?
次回は、
「誤作動が発動しない環境の条件」
を深掘りしていきます。
これは希望のある回になると思います。
noteにいろいろな記事を書いています。行動経済学やアドラー心理学などをベースとして、Re: Traderなりの視点、切り口でさまざまなことを読み解いています。ぜひ読んでみてください。
