なぜ道徳では、嫉妬を抑えられないのか
SNSで流れてくる知人の成功、
自分より先に評価される同僚、
自分にはないものを持っている身近な誰か。
そんな「他人の幸せ」を目の当たりにしたとき、胸の奥がざわつき、
素直に喜べない自分に嫌悪感を抱いたことはないでしょうか。
私たちはつい「嫉妬してはいけない」と道徳心で自分を律しようとしますが、
実は、感情を抑え込もうとすればするほど、
私たちの精神的なエネルギーは削り取られていきます。
本記事では、嫉妬を「性格や人格の問題」ではなく、
行動経済学の視点から「脳が引き起こす評価システムのバグ」として解剖します。
なぜ嫉妬はこれほどまでに苦しいのか。
そして、限られた人生の資産(リソース)を無駄にしないために、
私たちはどう思考を切り替えるべきなのか。
道徳論を一度脇に置き、あなたの判断をフラットな位置へと戻すための
「思考の処方箋」をお届けします。
他人の成功を見て、素直に祝えない。
そんな自分を見つけて、嫌悪感を覚える。
多くの人はそこで、
「こんな感情を持ってはいけない」
「もっと大人にならなければ」
と、自分を叱ります。
けれど結論から言えば、
道徳や我慢で嫉妬を抑えることはできません。
それは、沸騰した鍋に無理やり蓋をする行為に似ています。
一時的に静かになりますが、圧は内部に溜まり、
別の形で必ず噴き出します。
行動経済学の視点では、嫉妬は
性格や人格の問題ではありません。
脳の評価システムが引き起こす、かなり典型的なバグです。
嫉妬の正体は「参照点のズレ」と「損失回避」
人は、誰にでも嫉妬するわけではありません。
途方もない成功者や、まったく別世界の人物には、
意外なほど無反応です。
嫉妬が生まれるのは、
年齢や立場、環境が「自分に近い存在」。
これは、脳が無意識に
参照点(基準値)を置いているからです。
さらに、損失回避という性質が加わります。
人は、得をする喜びよりも、
損をする痛みを2倍以上強く感じる。
その結果、
他人が一歩進むと、
脳はそれを
「自分が一歩下がった」
という損失として処理します。
嫉妬が苦しいのは、
他人の成功が、
自分の損失として体感されるからです。
嫉妬は、自分の資産を燃やす意思決定です
嫉妬しているとき、私たちは何をしているでしょうか。
相手を観察し、
背景を想像し、
自分と比べ続ける。
この一連の思考は、
エンジン音だけが大きく、
一ミリも前に進まない空ぶかしに似ています。
回転数は上がっている。
けれど、ギアはニュートラルのままです。
時間、思考力、集中力。
どれも有限な資産です。
それを、
自分の人生を進めるためではなく、
他人の人生を眺めるために燃やしている。
経済的に見れば、これは投資対効果が最悪の意思決定です。
変えられない変数への嫉妬は「赤字が確定した事業」
ここで、はっきり仕分けが必要です。
家柄、配偶者、子どもの能力、
すでに固定された環境や過去。
これらは、自分の意思決定では動かせません。
ここに向けられる嫉妬は、
回収の道が最初から閉ざされている。
それでも脳は、
「考え続ければ何かが変わるかもしれない」
という幻想を持ち続けます。
しかし実際には、
考えれば考えるほど、
時間と集中力だけが削られていきます。
これは努力不足ではありません。
撤退判断が遅れているだけです。
嫉妬で回したエンジンは、自分をどこにも運ばない
現実的な話をします。
嫉妬のエネルギーで回した行動は、
ほとんど自分のためになりません。
なぜなら、その原動力が
「自分を良くしたい」ではなく
「相手に負けたくない」だからです。
この状態で生まれる行動は、
方向が定まらず、長続きせず、満足感もありません。
頑張っているのに虚しい。
成果が出ても、比較が止まらない。
エンジンの設計思想が、
他人基準だからです。
嫉妬は、あなたをデフォルト以下に運ぶだけ
ここで、冷静に見ておくべき現実があります。
嫉妬は、
あなたの能力を引き上げる力を持っていません。
どれだけ悩み、
どれだけもがいても、
回復できるのは元の状態までです。
嫉妬は、
あなたを本来のデフォルトの位置から
マイナス方向へ運ぶ力しか持たない。
苦しんだ分だけ、
原状回復の作業が増えるだけです。
自分で穴を掘り、
自分でそこから這い上がる。
その往復運動に、
多大なエネルギー資源を分配するのは、
あまりにも徒労です。
それでも、嫉妬は情報になり得る
一つだけ、重要な視点があります。
嫉妬が生まれるということは、
脳がどこかで
「自分にも可能性がある」
と判断している証拠でもあります。
ここで必要なのは、
感情ではなく、冷静な仕分けです。
変えられないものは切る。
変えられるものだけを見る。
自分のスキル、行動、時間の使い方。
これらだけにエネルギーを向ける。
他人の結果を見ない。
物語を作らない。
嫉妬を感情ではなく、
情報として扱う。
ここまで落とし込めたとき、
嫉妬はようやく、
燃料として再利用可能になります。
noteに同じテーマを異なる視点でながめたテキストを置いてあります。ぜひお読みください。
嫉妬で自分を責めてしまうあなたへ 心を摩耗させる「自己否定の二重構造」から抜け出す方法|Re: Trader Log.112
嫉妬というリソースの浪費を止めたあと、
私たちは次に『他人との距離(比較)』という迷宮に迷い込みます。
なぜ、昨日まで気にならなかった相手が、
急に自分を脅かす存在に変わるのか。
次回、その仕組みを解剖します。
お読みいただきありがとうございます。
【編集後記:ノイズを消し、自分をフラットに戻す】
誰かと自分を比べて、心がザワついてしまう。
そんな「脳のバグ」に捕らわれたときは、
情報のノイズが届かない場所まで自分を連れ出してしまうのが
一番の解決策かもしれません。
圧倒的な絶景や、一切の無駄が削ぎ落とされた空間。
そんな「本物」の中に身を置くと、他人と比較していた自分が
いかに小さな枠の中にいたかに気づかされます。
誰かの人生ではなく、自分の時間を丁寧に味わう。
その贅沢な体験が、波立った心を凪(なぎ)の状態へと戻してくれるはずです。
フラットな自分を取り戻すための旅を、ここから始めてみませんか。
参照点という厄介だけれど、私たちのOSにインストールされているものについて「優しさ」という側面から考えています。
このブログでは、日常のふとした瞬間に感じる「生きづらさ」や、
心身の健康、そして人生を少し面白くする視点について綴っています。
読んでくださった今のあなたにとって、
次に必要な一編がここにあるかもしれません。
もしよろしければ、本棚を少しのぞいてみませんか?
👇 Re: Traderを深く味わうための「最初の一歩」をまとめました 👇
